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アーカイブス No25 雑誌の取材インタビューにて(上)2013.10.31
毎日2回快便があっても
Q 先生のご著書の中で、玄米菜食をしている人でも宿便がたまると書いてありますね。
A よく聞くのですが、マクロビオティックを実行しておられる方の中には、「玄米食を正しく実行しているから、宿便なんかたまらない」と思っておられる方がいます。しかし、それは大きな間違いです。いくら玄米菜食を実行していても、食べ過ぎたら宿便がたまるのです。
一つ、面白い例を紹介します。今から30年ほど前のことですが、和歌山の田辺から50歳くらいの女性が入院してきました。その方は最初、自宅の玄関口で倒れて救急病院へ運ばれ、一命はとりとめたのですが、脳出血の後遺症で左半身にマヒが残りました。それでずーっと病院へ入院していましたが、半年過ぎても治らないので、退院して自宅でのんびり養生しようと帰ったところ、知り合いに勧められて甲田医院に来られました。私はその人を初めて診て、「あなたには宿便がたくさんたまっていますよ」と言うと、変な顔をされて「私に宿便がたまっていますか??私はね10年前から玄米菜食を実行しているので、人に見せてあげたいぐらいの太い便が毎日2回ぐらい出ます。それでも宿便がたまっていますか?」と言われました。
血圧が下がりマヒも改善
「なるほど。それなら、宿便がたまっていると言っても信じられないでしょう。だったら一度、入院をして断食療法をやりましょう。」ということで、断食を始めてもらいました。そうしたら、断食3日目の晩に、「先生、お腹が痛くなってきました。盲腸と違いますか」とその人が聞くので、「いや、これは宿便が出る前兆だと思うから、今晩一晩、辛抱して下さい」と言いました。
さて一晩明けると、私のところに走ってきて「先生、あれから、どんぶり鉢一杯ぐらいの便がでました」と報告され、それからも断食を続けていきましたら毎日「今日は茶碗に一杯出た」「今日は茶碗に二杯」などと、宿便がずーっと出てきました。こうなればさすがに「やっぱり私には宿便があったんだなあということがよくわかりました」と言われました。入院当初は血圧が180から200ほどあったのですが、宿便が出てからはいくら測っても、血圧は120と80ぐらいに落ち着いて、左半身マヒがほとんど良くなりました。来る時には杖をついていましたが、帰る時は「先生、もうこの杖はいらなくなったので決別して置いて帰ります。」と言って、残して帰られました。
このように、玄米菜食をしているからといって、宿便がないと思ったら大間違いだということですね。全体の食事量が、胃腸の処理能力以上に超過していれば、やはり食便がたまってくるということです。ですから、玄米菜食を実行している人でも腹七分目の少食を守り、胃腸の処理能力を超えないような習慣を身につける必要があります。
自分で宿便を見つける方法
Q たいていの人には宿便があるのでしょうか。
A 宿便がないという人は、今はめったにいません。宿便のないという人は、まず疲れないですね。一晩や二晩徹夜しても、びくともしません。それから、物忘れもしません。記憶力抜群です。だから、本当は、本を1回読んだら2回と読む必要のないような体じゃなかったらいけません。宿便が無くなればそうなってきます。若返りですね。不思議なことが起ります。
宿便があるかないかは、診断ですぐわかります。自分で調べようと思う人は、風呂入った時に、湯船の底に足をそろえて伸ばし、浴槽の壁に足を突っ張って、上半身をまっすぐに立てて足と直角にします。それから手をまっすぐにして、お腹に直角に当たるように押してみます。そして痛むところがあれば、そこに宿便があります。私は診察すると、あっここに宿便があるとか宿便が出たなとか、すぐ判ります。
Q 宿便が万病の元というわけですね。
A 宿便がでましたら、アトピー性皮膚炎などもいっぺんに治ります。宿便がたまって 腸の壁に傷がある、それがアトピーの原因ですからね。断食療法をやって宿便を取るのが一番早いのですが、これは辛いので少食で宿便を出す方法も考えましょう。
断食9日目で大量の宿便
これも40年ぐらい前のことですが、アトピー性皮膚炎の青年が入院してきました。断食すると、どんな病気でも、好転反応が出ます。アトピーだったら湿疹がひどくなったり、リウマチだったら痛みが強くなったりだとか。こんなのがいわゆる断食の好転反応というものですが、西式健康法では、「症状は即療法」と言って、症状が出たら喜べというのがわれわれの考え方です。
だから、その青年にも、断食に入ったらアトピーが悪くなるけれども、それは治るために必要なものなので喜んで迎えるように言って、断食に入ってもらいました。断食3日目ぐらいから、やっぱりひどくなってきました。「これは断食の反応なので、喜んでいい」と言って断食を続けましたが、ところが1週間たっても反応が衰えない。8日目になると湿疹だらけで、「先生、これでも喜ぶんですか」と言われると、私もちょっと自信がなくなりましてね「いつになったら治りますか」と聞かれたので、「これはもう神様におまかせするより仕方ないなぁ」と。
ところが9日目の晩に宿便がどわーっと出てきました。そして、朝が明けるまで4回、どんぶりに1杯ずつくらいの大量の便が出てきました。そしたらその後10日目ぐらいからかゆみがスーっと引いて、日に日にきれいになりました。結局17日間の断食で、すっかりきれいになりましたね。それで私も、やっぱり症状即療法だなあとよくわかりました。
帰りがけにその青年は、「断食の途中で何回、逃げて帰ろうかと思ったかわかりませんでした」と言っていましたが、そんなこともあって、断食をさせる時には、十分に気をつけないといけないなあと思うようになり、それからは、断食をあまり勧めずに、少食でいこうということになりました。それが今の少食療法、少食健康法です。
陰陽葛藤の生活も大事
Q なるほど。断食よりマイルドな方法として少食があるということですね。
A 少食であれば、栄養の方は特に心配する必要はありませんが、マクロビオティックで問題になるのは生菜食です。生の野菜と生の玄米を食べたら宿便は出やすいのです。ところがこれは、マクロビオティック信奉者には抵抗があります。そんな陰性のものばかり食べて大丈夫なのかと。 ここで考えたいのは桜沢如一先生のいわゆる食養論には、一つには陰陽中和、もう一つは陰陽葛藤という二つの側面があるということです。
今のマクロビオティックは、ほとんどが陰陽中和の食べ方をしています。野菜は陰性だから、火を加えて、塩を加えて、時間をかけて調理する。甘い陰性のものは食べない。そういうことを一般的に考えすぎて、生野菜や果物は体を冷やすからいけないと言います。しかし陰性葛藤の生活をしないと体質は変わらないと思います。
例えば、冷え性だから体を温める、暖房をする、おこたを入れる。そうしました ら冷えないけれども、冷え性そのものは治りません。温めれば温めるほど冷えに弱い体になります。つまり冷やすことによって冷え性が治るということもあるのです。陰性のものを食べたら体にこたえますが、だんだんとそれに対する抵抗力が出てきます。
冷え性の方が生の野菜と生の玄米だけを食べる生菜食をやりましたらね、10月頃からですと、11月、12月になるにつれて、冷えて冷えて、寒くて寒くて、やっぱり生野菜は体を冷やすんだなあとわかります。私も昔は、10月から始めて、冬のつらいことといったらありませんでした。
生菜食は「陰極まって陽生ず」
生野菜や青汁が体を冷やすということは間違いがないんです。ところが、生菜食をそのまま続けていますと、春になって、夏になって、秋になってまた冬がやってきます。すると次の冬は、あまり寒さがこたえない。楽に冬を越すことができます。
そして今度また夏が来て、その次の冬を迎える頃になりましたら、もう本当に靴下も足袋も何もいらなくなります。あんなに前は冷え症だったのに、冬でも裸で寝床に入る。そんな陽性の体になってしまうわけですね。そうしますとね、陰性の体を陽性に変えるためには、陰のものを食べないといけないということです。
Q 陰極まって陽生ずということでしょうか。
A そういうことです。陰極まって陽になるとは、このことです。言葉としては知っていても、実際に応用しているのは私だけです。いわゆるマクロビオィックとは少し違う点があります。そこら辺を理解して欲しいものです。