健康情報一覧
アーカイブス No22 臨時号 甲田光雄 ラジオ対談(中)2013.06.24
こころの時代 身体の不思議・もう一つの健康観 ラジオ深夜便 (中) 2000.11.12
医師の甲田光雄さんは、一九二四(大正十三)年生まれ。若い頃から胃腸病や肝炎に悩まされ、苦しみぬいた末に出会った断食療法が、甲田さんの健康観を大きく変えました。 現在、みずから経営する医院で、少食と断食を基本とした治療を実践する甲田さんは、食事の質を吟味することによって無駄な殺生を避け、からだ本来の機能を引き出す「少食思想」こそ、二十一世紀の食生活の柱となり、地球上のすべての生物が共生する平和の時代をつくりだす鍵になるだろうと語ります。 [インタビュアー: 金光 寿郎]
*少食を実行して初めて実感した一枚の葉っぱ、一粒の米の「いのち」
金光 食欲の問題についてはどうお考えですか。甲田先生ご自身は、どう克服されたのでしょうか。
甲田 私がいちばん苦労したのは、甘いものをがまんすることでした。私は生まれつき 甘いもの好きで、まんじゅうでも大福でも、一個ならむしろ食べないほうがましで、三つも四つも食べないと満足しないというほどの甘党だったんですね。ところが西式健康法では、甘いものには健康に悪いということを徹底的に教えています。ですから私は、健康になるためにはなんとか甘いものをやめなければいけないと必死になりました。まず、「もう今日から甘いものは食べない」と決心して日記をつけはじめたが、一か月もすると「大福もちを六つも食べてしまった」とか「ゆうべもアンコロもちを食べてしまった」とか、そんなことばかり書いていて効果がなく、元旦からやめよう、誕生日からやめようなどと決心してもそのたびに失敗し、しまいにはノートではなく部屋の柱に決心を刻みこみはじめましたが、そのうち柱が傷だらけになってしまいました。こんなに甘いものがやめられないのなら、もう患者さんを治す資格はない、医者をやめて死んでしまおうかとさえ思いつめましたが、そんな時でも「どうせ死ぬのやったら、ぜんざいを腹一杯食べて死んでやろうやないか」などと考える始末でした(笑)。人間ってそんなもんですよ。こんな苦労を通してわかったことは、人間はしばったらあかんということです。今の若い子がダイエットと言って、「食べたらいけない」と自分をしばり、その反動でたくさん食べて失敗するものと同じことだとおもいますが、やはり人間の本能である食欲を抑えるなどということを、われわれはむやみやたらにやっていけないんですね。さんざん苦労したあげくにわかったのは、「甘いものを食べてはいけない」「少食にしなければならない」と自分をしばるのではなく、「少食になりたい」「甘いものなしでやっていけるからだになりたい」という思いを強くすることの大切さでした。道元禅師もおっしゃっているように、「切に思う心強ければ、必ず方便もいできたれるようもあるべし」ということに、初めて気づきました。想念によって人間は変われるのです。それからというもの、私は常に「少食になりたい」と願うようになり、やがて甘いものに対する業が消えていきました。そして、ただ単に健康になるために少食をめざすのではなく、少食ということ自体が命を粗末にしない愛と慈悲の実践なのだということに、少しずつ気づいていったのです。少食にすると病気が治り、健やかに老いることができるのは、この愛と慈悲を実行する者に神様が与えてくださる贈り物なのだと思います。
金光 自分の命ではなく、食物の命も大切にするということですね。
甲田 私は少食を実行するようになって初めて、一枚の葉っぱ、一粒の米といえども命なのだから感謝合掌していただかなくてはならないということが、実感としてわかるようになりました。甘いものへの執着、もっと食べたいという思いも消えていきました。人間の空腹感というものは、あいまいなもので、腹が減ったと感じるのは、単に胃が荒れているからにすぎない場合が多いんです。私は一日一食ですが、朝四時に起きて晩の八時に夕食を食べるまで、腹は減りません。よく「しんどいやろ」「力、入らんやろ」と言われますが、逆に午後三時ごろにいちばん力が出ます。ところが、たまに友人に会って夜の十時ごろにものを食べたりすると、翌日はものすごく腹が減るんですね。これはやっぱり、胃が荒れた状態というのが空腹感をよぶということでしょう。食べているのに、いつも腹が減ったと感じるのは、ニセ腹と言って、実は胃が荒れているんですね。ですから、晩に食べ過ぎて、翌日腹が減ったと思っても、それを食べないでがまんしていると、夕方にはもう空腹感はなくなります。これは胃の荒れが治ったということです。
金光 空腹は、空っぽのお腹と書きますから、食べないから空腹感があるのかと思っていましたが。
甲田 そうじゃないのです。普通の人は朝食を食べますから、夜の食べ過ぎによる胃の荒れに気づかないというか、食べることでごまかしているんですね。しかし、われわれのように朝と昼をぬきますと、ちゃんと前夜の不養生の反応がでてきますし、また、出てきたほうがいいんです。
*「甲田カーブ」の不思議 質を吟味した少食がからだの仕組みを変えてゆく
金光 断食をして病気が良くなったという話は聞きますが、もとの生活に戻ると、また悪いところが出てくるのですか。
甲田 断食療法というのは、天下の名刀「正宗」みたいなもので、ズバット効きます。しかし、その後をどうしたらいいのかということについては、すぐ解決できませんでした。私は最初に西式健康法を試したんですね。火を加えたものはいっさい食べずに生野菜だけをとるという方法なんですが、これだと1日400キロカロリーほどにしかなりませんので、どんどんやせてへばってしまって長く続けられません。なにかいい方法はないかと探して、考えついたのが、生野菜とともに玄米を食べるということでした。私は昭和四十九年から玄米一合と生野菜一キロを、昼と夜の二回に分けて食べるという生活を始めてみました。最初は57キロあった体重が、45キロまで減りましたが、普通ならもっと減り続けるはずの体重は45キロから動かず、半年ほど横ばいを続けたあと、なんと今度は体重が増えてきたのです。
金光 食べる量は、同じですか。
甲田 同じです。たんぱく質は25グラムしかとっていないのに、46,47,48,49キロと体重が増えるんですからね。はじめは、「栄養失調で、むくんだのでは」と疑いましたが、血液検査をしてもまったく異常がないし、体調はものすごくいいんです。一日900キロカロリーで太ってくるなどということは、現代栄養学では考えられないことでしょう。これはまったく新しい栄養学だと感じて、私はふるえるような感動を覚えました。このことを大学の友人たちに話しても、「それは、おまえが特異体質やから」と、だれも本気にしてくれないんです。しかし、実際に私の医院にくる難病の患者さんに、断食療法後、この食事とってもらうと、病気が治るだけではなく、ある時期からどの人も体重が増えてくるんですよ。私はこれを「甲田カーブ」と呼ぶようになりました。