健康情報一覧
アーカイブス・甲田光雄講演抄録 1988~1994 No202013.04.27
< これらの内容中 社会的、医学的情報などは当時のものであることをお断りしておきます >
健やかに老いるための切符、少食
1994.6.26 甲田先生 日本綜合医学会関西大会で
老人の健康問題の中でも、今日老人性痴呆症が話題になっています。というのも現在105万人といわれる痴呆患者が十年後に150万人二十年後に213万人そして三十年後では実に315万人にも達すると予測されているからです。こうした‘恍惚の人’をかかえると世話をする家の人は大変負担になります。三十年後に315万人を世話する人といえば現在、小学生くらいの年代(特に女性?)でしょうがこの若い人口が減ってきていることを忘れてはなりません。ですから、これから老いていく方々は出来るだけ自己健康管理を心掛け痴呆症に陥って若いモンの世話にならないようにとの自覚を持って生活して貰いたいものです。
さてどうして恍惚になるかと申しますと、脳梗塞などで脳内血流が滞ったために起るものと脳細胞そのものが萎縮してくることでも生じてきます。この萎縮は脳神経細胞の軸索に元々在るβ-アミロイド蛋白が何らかの原因で線維化しβ―アミロイド線維となり軸索中に沈着した結果、タオ蛋白の減感作が進行して発生してくるのです。そうなると脳細胞にアセチルコリンが減ってき色々な障害が現れてきます。では、何故β―アルミロイドが線維化していくのか、最近の研究で俄かに脚光を浴びてきたのが、活性酸素です。スーパーオキサイトと称されるこの酸素が悪戯して、脳細胞が萎縮し、細胞をガン化させるとも言われています。それでは体内でどうして活性酸素が増えるのでしょう。今までの研究では、過激に運動したり、睡眠不足であったり、食べ過ぎたり、その他生活の乱れ全般の要素が推察され、また確認もされています。ところが残念ながら、宿便がその発生源であるという点をまだ指摘されていないのが現状です。即ち宿便の存在抜きにしてガンや痴呆症の治療も予防も考えられないのです。となると皆さんが健やかに老いていくためには、やはり宿便を溜めない生活、即ち普段から少食の生活が大事なのだと申し上げたい訳です。
さて翻って今の世の中を見てみますと美味しいものを腹一杯食べたら幸せといったグルメ志向の人々が何と多いことか。「あ~今日はステーキをいやというほど食べた、何と幸せ・・・・」と、一瞬は湛能したかもしれないけれど、その積み重ねが30年後には恍惚の人にと変質するのですよ。こうした予備軍が何と多いことか・・・それに豊かな国々でステーキを食べることが貧しい国々では飢えるという仕組みを忘れております。即ち牛肉100gを消費するということは、その家畜の飼料としてトウモロコシ800gを消費しているのと同義なのです。この地球上の一方で高いレベルの食生活を追求する結果、他方では生命の危機に脅かされるイビツな世の中なのです。こういうことから考えても、少食の実行ということは、キリスト教でいう愛、仏教で説く慈悲の気持に根ざしたものでないといけないということでして、これを真剣に実行する者だけが健やかに老いる幸福を受けられるのです。これが実は天の法則なのです。ですから、病気になったとしたら、何かの健康法をチョコチョコしたぐらいではダメで、この天の法則にたち返るようにとの警告を受けたのだと知って下さい。
さぁ、とはいえいっぺんには中々少食にはなれません。やはり段階を追って、たとえば一年ずつ200kcalくらい順次減らして、緩やかに着実に進めていくのがやり易いでしょう。具体的には、先ず夜食を止める。これは夜休む時に少し腹が減ったくらいがちょうど良く、それをしないと安眠熟睡ができず、ボゥーとした寝起きになるからです。次に間食を止める。胃腸の休める時間を確保します。第三に、朝食を減らしていき、抜いてしまう。この段階になると抵抗感が強いでしょう。というのも、朝食は大切でしっかり食べよという常識があるからです。
その根拠は「脳にエネルギーを補給できず午前中頭がボゥーとする」というものです。つまり脳という所は大量にエネルギーを必要とする箇処で、起きていても寝ていても常時、ブドウ糖という形のエネルギーを消費しているのです。これが脂質という形での代用が利かないということに栄養学ではなっているのです。ところが案外そうではないと判ってきました。即ち、イスラム圏で行われるラマダン、夜の一食だけで1ヵ月過ごす習慣の人々とか、また断食などを行う人々の身体を調べてみますと、意外にも非常事態下では脂肪が分解されたエネルギーを脳にまわしていく機構が動き出すことが解明されてきました。それで朝食を食べなくても、しっかり習慣にさえすれば、体内に蓄えた脂肪で結構充分にやっていきますし、むしろ宿便を溜め込まない利点も考えられるのです。
それにまた朝食を抜くと、体温が下がってくるという利点もあります。つまり代謝が緩やかになってきて酸素消費が13%減るからです。実は、我々が消費する酸素の1%が危険な活性酸素だといわれておりますので、結局体温を下げるということは、痴呆症やガンの発生の危険から遠ざかるということに繋がる訳です。ですので、朝抜きで下がる0.5度くらいの体温低下はむしろ益と考えていいのではないでしょうか。今皆さんをここからお見受けしていますと、気持ちよくコックリコックリされている方や身体がグニャッとしている方が居られますが、お昼ごはんや昨晩の過食を物語っています。さしずめ痴呆症の候補者といったところでしょうね。(笑)この話をお聴きになってどうぞ皆さん、健やかに老いるために、「少食」を生活の習慣にまでなさって下さい。無理矢理に仕方なく頑張っている「少食」では少し心配ですよ。 {了}