健康情報一覧
アーカイブス・甲田光雄講演抄録 1988~1994 No182013.02.28
<これらの内容中 社会的、医学的情報などは当時のものであることをお断りしておきます>
超少食でもやっていける理由の考察 1995.5.3 甲田先生 新栄養学研究会で
いくら少食といっても一日に僅かコップ一杯の青汁だけの食事で何年もやっていけるHさんのような仙人みたいな人々が現れたことに、私は強烈な感銘を受けたものでしたが、一方でそんな栄養で人間が生きていける理由を説明しなければならないという大きな課題を背負いこんだなぁとの思いでした。彼女の摂収カロリーといえばせいぜい100kcal、蛋白質は僅かに5gです。今の栄養学の常識からすれば一般女性なら約2000kcal必要で、しかもそのうちの15%の約300kcal即ち約75gは蛋白質で摂収しないといけないというものですからこれは破天荒な栄養内容なのです。さて考えられそうな根拠について研究して参りまして中間報告風にいくつか列挙します。
1)少食にするにつれて自己防衛的に働き基礎代謝を下げることが断食の場合で知られていますが、やはり仙人食の場合も同様と考えられます。生菜食(600kcal)2食の方々の変動を見ましたら、40~60%減と判明しました。ということならば普通1200kcalが約半分の600kcalでよいと考えられることになります。これはエネルギーの節約大です。ましてや仙人食となれば尚更でしょう。少食でも差支えはないという芸当が現実味を帯びてきます。ついでながらその余徳として酸素消費量が減りまして当然活性酸素の発生が抑えられますのでガンとか老人性痴呆症になる危険性も少なくなります。
次に、普通の飽食している人体内では利用価値がなくて廃棄しているものを、仙人の人々は有効に活用してエネルギー源へ転化する仕組みを獲得したのではないのでしょうか。そこでまずはオシッコ・・・
2)尿素の再利用という点です。通常尿素は尿中に溶けて排泄されるものですが、牛や羊など反すう動物などでは、その消化管の一部(ルーメン)に存するバクテリアが唾液中の尿素までも分解利用していることが判っておりまして、ひょっとすれば人体でも腸管内細菌により同様の現象が起きるようになるのではないでしょうか。即ち尿素がアンモニアに分解されそれを吸収して肝臓で蛋白質に合成するのです。因みに仙人さん達で特に低蛋白血症で栄養不良の方はいらっしゃいません。
3)蛋白合成で考えられるもう一つの点は腸内細菌による窒素の固定です。これについてはパプアニューギニア原住民に対するオーメン氏の研究報告が有名です。即ち原住民の食生活ではサツマイモやタロイモが主食でして蛋白質摂収が非常に貧弱なのです。にもかかわらず彼らの筋肉は逞しく活発な生活ぶりで順調な成長もしており、栄養学からすれば疑問だらけです。しかも驚いたことに蛋白の材料としての窒素ですが口から入れた食物中の窒素量より彼らの糞便中の窒素量の方が多いという結果が出たのです。即ちタロイモを食べるより自分の排泄物を食べる方が栄養価は高い訳です。(笑)この疑問を解こうとヒップスレー氏、ベルガーソン氏が調査をしました結果、原住民の腸管内に窒素を固定するプレブジーダエアロウイルスが発見されました。この細菌は飽食している白人の腸管内にも存在したのですが、原住民の菌の方が窒素固定能力は高かったそうです。これから示唆されますように腸内細菌にはまだまだ未知の働きがあり、そうした菌を宿す人間側にも思わぬ能力が秘められている様なのです。こう考えていきますと今の栄養学は単に口から摂取する栄養が対象の研究ですが、これでは不十分と言えそうです。
4)西式健康法の西勝造先生に至りましては裸療法などの実行により、マメ科植物の様に人間でも空気中の窒素までをも固定して蛋白合成を行える力を秘めていると説えておられます。こんなことが本当にできるのだろうか・・・一度実験してみたいものです。技術的には可能な実験でして放射性同位元素で空気中の窒素にラベルし皮膚から入って体内に貯蓄するかを機器で追えばよいのですけれど何せ高くつく実験なので手が出ません。大いに興味あるテーマですね。
5)従来、不消化物としてエネルギー計算から除外されていた食物繊維ですが、これも腸内細菌の作用で短鎖脂肪酸にと分解され酢酸、プロピオン酸、吉草酸など低級脂肪酸、即ちエネルギー利用可能な物質が生産されると最近判ってきております。即ち繊維類も全くのゼロカロリーではなく、菜食として多く摂れば僅かでもエネルギーとして活用できる食材な訳です。ましてや仙人食となればそれらの重要性は人一倍でしょう。
また一旦摂取した栄養分の無駄使いをできないような身体の組織変化も考えられます。
6)褐色脂肪組織の減少もそのひとつです。所謂、中性脂肪を蓄える皮下脂肪として知られる白色脂肪組織とは異なりこれはワキの下や肩甲骨の間など部分的に少量身体にあるものでして、熱は産生するもののエネルギーを作り出さないという働きがあります。栄養学的には効率の悪い脂肪といえますが、一方過食をした際には体温を上昇させてエネルギーを散逸させて、バランスを保とうと作用致します。従って肥満で悩む人で、体脂肪は減少したものの思う程も体重が減らないという場合はこの作用が障害されて、結果的に白色脂肪へと回る方々だと考えられます。さて仙人食の人たちでは逆に褐色脂肪組織はエネルギー効率が悪いのでむしろそぎ落としていると考えられます。
その他にも西先生のユニークな説として、今の栄養学では不可能とされる三大栄養素中の蛋白質と糖質、脂質の互換が可能という点なども視野にいれておき、今後の研究を待ちたいものです。これからの若き研究者達には超少食仙人の存在を、事実は事実として認め更なる研究をお願い致したいものです。