健康情報一覧
アーカイブス・甲田光雄講演抄録 1988~1994 No112012.06.01
胃病・塩と水の摂り方を 1994.2.5 甲田医院・胃腸病克服の会にて
胃下垂症や慢性胃炎など胃弱の人は痩せた方が多く、できるだけ栄養あるものを摂って肥えようと考えます。現に栄養指導でも消化の良いものをよく噛み潰し、少量ずつ一日に四回~六回くらいに分食することとなっています。しかしそれでスッキリ治るかといえば案外そうではありません。下垂そのものが解消する訳ではないのです。もし沢山食べて胃下垂症が治るなら、金持ちに胃下垂症は無いはずでしょう。さてそれでは具体的な対策を考えてみましょう。着眼点として次のような点が挙げられます。即ち
1.背骨の狂い
2.水の飲み方
3.塩の摂り方
4.足首の故障
5.宿便
6.腹筋鍛錬
7.関係諸臓器の作用強化。
先ず背骨ですが、猫背の姿勢で胸椎骨5~7番あたりに狂いが生じたとします。ここの神経は胃袋から十二指腸への入り口である幽門の括約筋の開閉を司っております。神経作用が正常ですと幽門は1分間に6~8回くらい開いて、胃の内容物を小出しに腸へ送り出すのですが、狂いがひどくなると1~2回しか開かないこともあるのです。こうなると食べたものや水分がいつまでも胃袋に溜まりその重さで胃下垂となり胃壁が荒れ易くていつも胃炎を起こし、胸やけ、胃もたれなどを感じている。そんな状態を消化剤でごまかし、消炎剤で一時凌ぎしていたら、ヘタすると知らぬ間に胃潰瘍にでも悪化しかねません。従ってもっと根本的に胃が空っぽのタイミングで金魚運動、背腹運動を毎日行ない幽門を開き易くしておかないといけません。
次に胃下垂症の方は水の飲み方に要注意。胃が空っぽのときに少量ずつ数回に分けて飲むことです。即ち、食事中とか食後すぐにお茶、汁物、水分を多くすると、十二指腸への送りに負担がかかるし、胃壁の荒れが治りきらないのです。またそうしたところへ、アルカリ性の強い海藻や煮野菜、繊維素の多い青ドロ状の生野菜を摂ると一層ひどくなり、口内炎やアクチを作ることになると知らねばなりません。
さらに考えておくべきは塩の摂り方、つまり食事中の塩分量です。これは個人差があり、水の飲み方とともに大変デリケートでして、自分の体に合った水と塩の摂り方を会得したものは健康法の達人といえるくらい難しいのです。一般に、かいた自分の汗の中に塩分が少ない方は陽性体質、多い人は陰性体質といえまして、胃腸病を慢性化させる方は概して陰性体質に属し塩を失い易いのです。ですからこうした方が減塩食なんてやりますと増々調子悪くなる傾向にあります。ところで、塩分不足になるとどうなるか。まず血液中の塩分不足は肝臓でのブドウ糖合成に支障をきたし、このブドウ糖が少ないと疲れ易くなる。ヘバルのです。ですから血中塩分濃度は0.8%を保持せねばなりません。
次に胃酸が充分に出ない点も問題視されます。胃液は食塩を材料に作られるからです。胃酸の薄いことで怖いのは食中毒菌を殺菌する機能が減衰すること、それにカルシウムや鉄分をうまく吸収できなくなるのです。犬なんか腐りかけた肉」を食べても平気でいられるのは胃液の出が完全だからです。最近研究で判ってきたのですが、人間の胃の中にはある種のバクテリア[*ヘリコバクターピロリ菌]の存在が確認され、これが多い人は胃潰瘍、胃ガンになり易い。そしてこの菌は胃袋中のPHが7.4即ちややアルカリ化した中性くらいになれば増殖してくるそうです。従ってやはり胃液は強酸性の状態になっていなければ怖い面があるわけです。こうした意味からも無酸症の方や胃潰瘍の手術をした方は注意しないといけないのです。
さて、では塩分を摂る方法ですが、塩水ではダメでして、食事で摂ることです。もし胸焼けが続いているようなら生醤油や梅干でも好ましくないかもしれません。ましてや味噌はダメですし、カレーライスなんて一発に悪化する。こういう胃荒れがひどい時は、やはり塩味です。しかもこの場合、いくら健康食だからとはいえ、海藻や胡麻、玄米ごはんにしたら増々ひどくなります。白米でもダメなのです。これは粥食にしないと・・・・・
それより良いものは玄米クリーム食にすることです。病人には病人食があるのであって健康な人の机上の理屈では計れないデリケートさが身体にはあるのです。それを健康食と過信してずるずる胃や十二指腸の荒れを治せないでいるとやがて粘膜に癌(ポリープ)が出来かねませんね。こうならないように一食でも二食でも抜いて粘膜の荒れを素早く治しておかないといけません。
また足首に故障があると就寝中に直腸温度が高くなり汗を多くかき易い。夏場の汗も冬場のコタツ、厚着の汗でも同様でして無自覚に塩分を失うのです。こんなケースは胃の不調は足の故障からということになります。サァ、脚絆療法や毛管運動ですナ。毛管運動、それに特にスットン運動は同時に腹筋を鍛えることにもなるので、一回に十分間、脚を挙げることを目標に頑張って下さい。
一方、裸療法や温冷浴で腸や肝臓の働きを活発にすることも大事です。元気な肝臓から充分に胆汁酸が出れば、その刺激で腸の蠕動が活発になるのです。すると宿便が剥がれ易くなって腸からの排泄が高まります。腸管に空白真空ポイントが生じますと、そこを埋めようと働きますので当然胃の内容物が下へ引っ張られてその結果、胃のトラブルも鎮まり易い。大体、便秘気味だというのは肝臓が弱ってきた証拠です。宿便排除が大切だということがこれでお判りでしょう。肝臓はじめ消化器官の動きに元気が蘇ってくるのです。胃のトラブルと一言で言うけれど、多方面から対策を見ていかなければいけませんね。服薬でちょいと治める小手先ばかりの対症法に頼っていたら深みにはまるばかりですね。