健康情報一覧
アーカイブス・甲田光雄講演抄録 1988~1994 No62011.12.26
< これらの内容中 社会的、医学的情報などは当時のものであることをお断りしておきます >
肥満から成人病へ 1995.6.10 京都会館での講演より
飽食過食の結果、肥満の方々が増えきております。大人だけでではなく、児童の間にもこの傾向が見られ、平成二年の調査報告によりますと、対象の14,700人の子どものうち20%以上の肥満度は13.7%の数にのぼり、10%くらいの肥満度なら二人に一人とのことです。こうした成人病予備軍が成人となる30年、40年後を考えると、そら怖いことです。肥満から派生する様々な病気をチョット挙げてみよう。
1・動脈硬化 肥満で皮下脂肪が増えてくると細胞の回りに細胞滴がくっつきます。細胞の表面膜には滑面小胞体があって細胞滴は滑り出し血液中に漂う遊離脂肪酸として身体中を巡ることになるのです。この遊離脂肪酸が肝臓に入るとコレステロールに合成されます。皆さん方は「卵の黄身にはコレステロールが多いので食べられません」などと食べ物に気をつけられますが、そんなくらいは300ミリグラムでして、むしろ毎日肝臓で合成されるコレステロールは、その三倍、約1グラムあることを知らねばなりません。食品を吟味するより先に、まず痩せないといけません。さてコレステロールの中でも問題にされるのはLDL(悪玉)の方です。たとえばタバコを吸うとしますとその中の一酸化炭素が血液中に吸い込まれ血管の内皮細胞が傷つきます。一方、タバコの過酸化水素はLDLコレステロールと結びついて、そこに酸化LDLコレステロールを生じます。これが先ほどの血管の傷口から透過しようとしますと、この異物に対抗しようとマクロファージ(大食細胞)が動き出し、血管の傷の所に硬膜細胞が出来上がります。これが、所謂、動脈硬化の始まりです。こうしたことが何年もくり返されるうち、血管の変性を生じてしまうのです。
2・脂肪肝 遊離脂肪酸が増えてくると、当然ながら肝臓に脂肪が沈積し、鈍重肝臓の様相を帯びてきます。
次に遊離脂肪酸が多くなるとインシュリンが増えてきて、高インシュリン血症という症状を呈してきます。
3・糖尿病 即ちインシュリンというのは、細胞が血液中のブドウ糖を取り込むときの刺激剤の役割を荷っておりまして、これが不足すると、細胞は血液から栄養を受け取りにくくなるのです。ところで遊離脂肪酸が血中に多く在ると、インシュリンの作業に抵抗を生じ、効率が悪くなるのです。そこでもっと多量のインシュリンが要求され結果的にその製造元である膵臓が酷使される状態が慢性化されます。遂に、膵臓の能力がダウンしてきまして、インシュリンの量は減って参ります。こうして肥満を下地として糖尿病にと発展してくる訳なのです。小児にまで糖尿病の影が忍び寄ってくるとは由々しきことですよ。
4・高血圧 またインシュリン含有量の多いと交感神経が刺激を受け易い状態にあります。そうしますと、その影響で、血管は収縮する方向に動きます。また他方、腎臓も交感神経の指令のもとナトリウムを再吸収しようと作用し始めます。そしてナトリウムが増えるのですから高血圧にならざるを得ないのです。で、降圧剤を服用するより、まず高インシュリン状態を解消すべく痩せることが望ましい訳です。
5・痛風 それからまた排泄面で尿中に尿酸を溶け出しにくくなりますので肥満は痛風を招き易いこととなります。
それからまた、皮下脂肪が多い人は、性ホルモンの産生が多くなるということが判ってきました。つまり副腎からはプレホルモン(ホルモン前駆体)というものが出てくるのでしてこれは必要に応じて、女性ホルモン、あるいは男性ホルモンという性ホルモンに転化されて体内に供給される仕組みになっているのですが、過剰になるとトラブルの基にもなります。
6・乳がん もともとこの病気は日本女性よりアメリカ女性の方が五倍も発生頻度が高かったのです。その原因を研究しましたところ、女性は一般に、卵巣で作られる女性ホルモンの量が30代、40代と加齢するにつれ増え続け、更年期を境に徐々に減っていくという生理状況にあります。そして、従来の日本女性ではそのような経時変化がみられるのですがアメリカ女性の場合はそのままずっと増え続けるという傾向がみられるのです。この差異を調べるうち、中高年の肥満度と関わりがあると判ってきたのです。即ち、卵巣ホルモンは減ってくるのだけど、先に述べた副腎に由来するプレホルモンが実は皮下脂肪に出会うと酵素の作用を介して女性ホルモンに転化し、結果的に皮下脂肪を多く蓄えている人ほど過剰になっているのです。そしてこの過剰状態を原因として乳がんを発症してしまうという訳なのです。アメリカ女性の肥満は日本よりスケールが大きく、乳がんになる人が多かったのですが、最近は日本女性も中々のものになってきまして、この病気は増加傾向にあるのです。
7.子宮ガン 似たような傾向が子宮ガンでもみられます。といいますのも元々子宮ガンと言えば日本では子宮頸がんが大半だったのですが、最近は子宮体ガンが段々増えてきております。20%を占めるくらいにまでなってきました。これは、やはり女性ホルモンが過剰のため、子宮内膜の自己増殖を引起していると考えられるのです。
8.不妊症 これは先のプレホルモンが男性ホルモンへと転化し、過剰になったと推測されるものです。こうなると、生理はキチンとあるものの排卵が無い、無排卵性月経ということになるのです。そこでやはり、スムーズに妊娠するために痩せた方が、確立が高まるということになります。
9.不整脈 遊離脂肪酸は元々、空腹時に増加してくるものでして、これが脈博の不整を増やし易いことは知られております。従って、脈に異常を秘めている人は断食などを行いますと、ハッキリ確認できます。そうした方が肥満解消のためにマラソンやジョギングするときは何かを口にしてから行わないと危険だということです。やはり、ジョギングなどよりも歩く方が賢明だということになりましょう。ともかく痩せて脂肪酸を減らしておくに越したことはない。
さあ、皆さんどうです。こうしたことを知れば、今日からは少食にして肥満を解消しようという気になりませんか・・・