健康情報一覧
アーカイブス・甲田光雄講演抄録 1988~1994 No32011.09.21
< これらの内容中 社会的、医学的情報などは当時のものであることをお断りしておきます >
糖尿病が増えている 1990.6.10 生菜食研究会例会で
糖尿病患者は現在約300万人いるといわれ、潜在的な境界型も含めると約600万、日本人の20人に1人に達するという時代となってきました。昔なら、ぜいたく病と考えられていましたが、今はザラにある病でして、発病するとなかなか治り難く、進行すると余病で命を落とすと厄介な病気です。やはり、予防や早期治療が大切でしょう。
糖尿病とは文字どおり、尿に糖が混じって出る病気ですが、これは血液中に糖が増え過ぎるために起こっています。通常、血液100CCの中には70~100mgの糖があるのですが糖尿病では180mg以上と多くなっています。糖尿であるかどうかの血液検査は、空腹時の血液値を調べます。140mg以下なら正常ですが、もしそれ以上なら耐糖能テストを行っています。即ち、75gのブドウ糖を飲んで30分毎に2時間後までの血糖値を調べるのです。そしてたとえば2時間後の値が140mg以下なら正常140~200mgは境界型、200mg以上は真性の糖尿病とせれている訳です。ところで、このテストでは患者さんの前日の食事内容によっては結果がはっきり出ないことがありますので、もっと精確を期すために血液中のグリコヘモグロビン数を調べる方法もあります。ヘモグロビンはブドウ糖と結合し易く、一旦結ばれるとその赤血球細胞が死滅するまで(赤血球の寿命は約120日間)その状況を保つので、1ヶ月前の情報も読取れます。そこで、グリコヘモグロビンの含有量が6~7%は境界型、7%以上で糖尿病と判断できるのです。
自覚症状としてはコムラ返りをよく起こす、足がシビレ易い、インポテンツなど神経障害が色んな形で現れてくる。ひどい人なら、自分が履いていたスリッパが脱げても気づかぬほど、神経が鈍磨するのです。それから血液に糖が多いため、細菌がよく繁殖し易い。そのため傷をしても化膿、出血をし易く治りが悪い。ひげ剃り負けし易く、うなじにも赤いぶつぶつを発生する。蚊やアブが好んで寄ってき、刺された跡も紅く腫れて中々色がさめない。病気がもっと進むと身体がだるくなったり、異常に喉が渇いたり、また多尿となる。糖が棄てられるので次第に痩せてもきます。こうした諸々の症状が起こって参りますので、現代医学ではやっきになって糖をコントロールしようとします。しかしながら、盲点となっている部分があるのです。
それは糖尿病というのは一種の血管病でして、血糖の増加により動脈硬化が急激に進行してゆきます。そしてやがて毛細血管の血流が悪くなり、グローミューは溶けて消失してしまいます。これらの血流の道を再生して健全にしない限り、いくら血糖をいじくってみても思うようには治療の効果は期待しにくいのです。そうこうするうちに、病気が進行して余病が現れてきて慌て出すのです。
糖尿病の合併症といえば多いのが網膜症、腎臓障害、神経障害などでしょう。まず網膜症ですが、網膜には細動脈や毛細血管が多く分布し、これが動脈硬化で破れますと硝子体へと出血を起こす。その血液を吸収せんがために、新しく血管が作られ、これが元で網膜の機能が障害されるのです。発生率は10年の糖尿病で50%、15年の者で90%といわれ、米国では年間5000人が失明してゆきます。現在、破れそうな血管をレーザー光線で焼くという光凝固法が施されていますが、視力を回復させる手だてまではありません。水晶体が酸化されて濁る白内障はどうしようもないのが現状です。
次に腎臓の糸球体の血管がやられてきますと当初尿に糖だけが下りていたのに、次第に蛋白も現れるようになって悪化します。この状態を発見したのがキンメルスティール・ウイルソン氏でして、いわゆる糖尿性腎症と呼ばれ、末期症状ですナ。さらに、神経細胞を養うべくからみついている血管が詰まってきますと、神経障害。神経細胞も色々あり、通常インシュリンを媒介として血液からブドウ糖を吸収しますが、自律神経は他と異なり直接吸収してしまう関係上、余計な果糖とかソルビトールまで入り込み、高血糖の害をモロに破り易いのです。ちょっとしたケガなら無自覚で過ごしてしまうほど鈍感となり、然も怪我した箇処を補修する血液も量が減り、治療能力が落ちて化膿し易い。ひどくなると細胞懐死を招き、切断の憂き目をみることもある。アンカに脚を入れたらヤケドをしていても知らない。ウッカリ皮膚をボリボリ掻けない。歯の治療も出来ない。ウッカリ深ヅメしていても大ごとになる。膀胱神経を犯されたら排尿不完全になり直腸神経なら排便がしにくく、胃神経では胃の無力症を誘発する。妊婦さんが糖尿病となれば奇形児を産み易い、特に血糖値200mg以上の妊婦さんではそうした危険性は高くなります。奇形児となる、ならぬは妊娠後7週間が勝負でして、それ以後にいくら養生してもアトのマツリなんです。色々申しましたが、糖尿病は放っておいて進行させたら大変怖い合併症が待っているということです。
ここで糖尿病の治療について簡単に触れておきましょう。現代医学では1.食養生 2.薬で血糖値を下げる 3.運動療法の三本柱を基本としております。先ず食事療法は大体体重1kgにつき30カロリー、体重50kgの人なら一日に1500カロリー。その栄養構成はご飯やパンなど糖質(炭水化物)を150~200g、蛋白質を60~90g、脂質40gを理想とします。これで約1200~1700カロリーというところでしょう。1200カロリーといえば、パン一斤と卵一個あるいはビール一本にピーナッツ180gという程度でして、本当に少ない食事量です。そして、その上運動を課せられるのです。運動といっても余り過激なことはダメで、散歩速歩がいい。時速6kmが適当といわれます。運動療法を行いますと、血糖を抑えるインシュリンホルモンのレセプター(受容体)が活発に働き、インシュリン吸収が昻まるのです。インシュリンといえば皆さんご存知にように、大食したり甘いものを食べたりして血糖が高くなったときに膵臓のランゲルハンス島のβ細胞から分泌されるのですが、糖過乗状態が長く続くとβ細胞の機械的疲労から分泌が鈍ってきます。成人病はこのケースが多く糖尿病2型と呼ばれます。一方、1型は若年性で、おたふく風邪や風疹のウイルスでβ細胞自身が崩壊しますので、どうしても外からインシュリンを一生補ってやらねばなりません。大多数を占める2型には血糖降下剤が用意されます。即ちスルフォニール尿素剤やビグアナイド剤で疲労した膵臓に鞭うってインシュリンを出させようとするものです。ところが問題もありまして、薬が利き過ぎますと低血糖症状が現れてきまして、冷や汗が出て震えがきて危険な状態になります。そこで患者はいつものポケットにあめ玉をしのばせておかねばならない。それにまた、薬の影響で血液中に乳酸が増え、結果的に動脈硬化が進行して、余病の引金になる危険性を持っているのです。どのみち病気そのものは治っておらず、血糖値が下がっても、全く網渡り的治療です。
さてそれでは、もっと根本的総合的な治療は無いものか。先程の速歩一日一万歩という運動療法は無難なところですが、食事療法は一考の余地がありそうで、薬物療法ともなりますと、これはできるだけ縁を切りたいものです。そこで、血糖を下げるとともにグローミューの補強、再生も同時に進行させるという点に眼目を置きましょう。先ず食事面ですが、ポイントになるのは生野菜なのです。同じ1200カロリーの食事と申しましても、生野菜汁を一日に三合程度摂ります。これが糖を抑えるのに有効なのです。イギリスのオーガスティン博士の行った犬の実験でも、膵臓を摘出して血糖調節をうまくできない様にした後、玉葱の汁を飲ませましたら、通常4~5日間の命なのに、60日間にも及び、しかも高血糖とはならなかったという好結果を得ています。このようにインシュリン投与を受けている方でも一日に三合の青汁、一合の玄米、豆腐一丁、それに20g程の絹こし胡麻、数切れのカボチャといった内容の食事療法で好転して参ります。こうしてインシュリンと縁が切れるまでいき、次に生菜食法に入りますと体質改善がグンと進み、びっくりするような健康体になり糖尿病も治ります。断食法でもよろしいが、余りに高血糖値の人が無理をされていても、血糖が下がり過ぎて害がないとはいえません。即ち元々グローミューが崩壊している人達なのに、低血糖状態に置かれますと細胞は乏しい栄養を取ろうとして血管を拡張させ、それがために出血を招く恐れがあるからです。ですから急激な変化を誘う断食より、グローミューを再生する生野菜を摂りながら行える生菜食のほうが無難でしょう。こういう手順で食事療法を進めていきますと、血糖降下剤を使わずとも、血糖値は落着き、しかも血管も正常になって根本的治癒が可能です。
後は、再生したグローミューを損ねず、毛細血管網を整備しておかなければなりません。それには柿茶でビタビンCを充分に補い血管壁を強固にしておき、裸療法や温冷浴で血管の収縮拡張を促して鍛えます。さらに、血管がスムーズに血管内を流れるように毛管運動や脚絆療法その他の健康体操を励行します。それに糖尿病になる方は体液のバランスが悪く酸性に傾いておりますので、過労、不眠、強いストレスなどを避け、夜は深く充分に眠ってアルカリ化を期した方がよろしい。そうなりますと、肉体上の適切な管理は勿論ですが、他方、心配事でクヨクヨしたり、怒りを爆発させたり、悲しんだり恨んだりして心の平衡を崩さないようにしないといけません。心の養生も大切な要素と心掛けて下さい。こうして正しい少食と正しい心で生活していけば、単に薬で血糖を抑えている状態ではなく、血糖を自分の身体がコントロールすることができるような本当の治り方をするのです。
(了)